昨日に引き続き民法改正後の仲介現場における感想です。
賃貸に関しては、保証人について大きな改正があり、昨日は極度額についてお伝えしました。
今日は、同じく個人の連帯保証人に対して新設された規定ですが、極度額の設定とは異なり、貸しビルや貸店舗、貸事務所といった事業用物件の賃貸において、個人の連帯保証人を立てる場合に義務付けられた項目があります。
それは、保証契約の締結前に、債務者、ここで言えば、事業用物件の借主となる人が、連帯保証人になってくれるように依頼する人に対して、事前に、一定の事項を説明して、きちんと情報提供をしなくてはならないと義務付けられました。
例えば、Aさんが起業してケーキ屋さんを始めようと、ある店舗物件を借りようとしていたとします。
そして、その店舗物件を借りるには連帯保証人を立てる必要があり、Aさんは親戚の叔父さんに連帯保証人をお願いしました。
今までであれば、その後契約を結ぶときに、保証人になってくれる叔父さんには、契約書や保証人承諾書に署名捺印してもらうだけでよかったのですが、
改正後は、その前にAさんが叔父さんに次の内容をきちんと説明しなくてはいけないことになりました。
- 財産及び収支の状況
- 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況→例えば自宅の住宅ローンやカードローンなど
- 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容→契約しようとしている賃貸借契約の敷金や保証金など
以上の3点について、情報提供しなかったり、虚偽の情報提供をした場合は、その後に個人の保証人がそれを知ったときには保証契約を取り消すことができる、というようになりました。
これまでは、借主本人と保証人の間の近しい人間関係から、口頭でお願いて、後日ハンコを押してもらうだけのケースが多かったのではないでしょうか。
でも今後はきちんと所定の内容を説明しておかないと、後で保証を取り消されてしまう可能性が出てきました。
これは賃借人(借主)にとっても大きなことですが、もう一方の当事者である貸主にとってもとても大きな問題です。
なぜなら、借主が賃料を支払わないので連帯保証人に請求したら、情報提供がなかったら、保証契約は取消します!よって関係ありません!と言われてしまい、結局泣き寝入り、という事態になりかねません。
私の会社の加盟する不動産団体では、加盟業者に対して、借主が保証人に対して行う情報提供を書面にして、当事者に署名捺印してもらい、証拠を確実に残しておくように指導しています。
実務的には、定期借家契約の事前説明書のように、説明した内容を書面で残し、かつ関係者双方が署名捺印して保存しておく、という流れです。
これにより後で聞いてなかったよ、ということで、いざという時になっての保証取消しの防止ができます。
さて、現実問題として、事業用物件を賃貸する際に、個人の連帯保証人を立てる必要があるケースとはどのような場合でしょうか?
大企業や大手チェーン店などは、会社の資金力や信用力から、保証人を立てないで契約するケースが多いため、該当するケースとしては中小企業や新規開業者が多いと思います。
そして、法人の場合は、会社が借主、連帯保証人がその代表者となるので、先程の情報提供は、自分の会社が代表者、つまり自分に対して情報提供することになるケースが多いのではないかと思います。
このような場合は、特に情報提供に対して、センシティブに神経質になる必要はないと思います。自分が自分にしているような感覚ですから。
しかし、オーナー社長以外の第三者に保証人を頼むケースや、個人事業のケース、また新設法人で代表者以外にもう一人連帯保証人を要求されたような場合などでは、
代表者としては、いくら近しい人であったとしても、自分以外の第三者に会社や自分の財務状況等のセンシティブな情報を提供しなくてはならないということで気にされる人もいると思います。
どうしても、情報提供したくない、といった場合は、貸主に相談して、保証会社の利用で良いかどうか確認の上、保証会社を利用していく形になると思います。
しかし、保証会社からも当然、保証契約の申し込みにおいて、申請書や添付書類で財務状況等の提供を求められますので、どちらが良いのかは一概には言えませんが人それぞれの判断だと思います。
さて、実際、私も仕事の現場で何度か、この情報提供書面のやり取りを間に入ってやらせてもらいましたが、当初の懸念とは異なり、総じて良い反応を関係者の方々から頂いています。
ある物件を借りられた新規開業者から、連帯保証人にお願いした方に対して書面とともに情報提供をしていた時、保証人からは、
以前はこのような手続きがなかったためトラブルに見舞われたことがある
というような話を聞いたと伺いました。
この手続きは、借主、そして間に入っている不動産会社にとっては新たな負担ではありますが、保証契約を締結する保証人にとっては大きな安心感を提供できているのではないかと思いました。
また、この手続きにより、否が応でも借主と保証人の間でコミュニケーションを取らざるを得ない、といった効果もあるようです。個人的にはこれが一番大切なことではないかと考えています。なぜなら、コミュニケーションのないところにトラブルが多いからです。
事業のために負担する債務は、個人が住宅等で負う債務よりも多額になることがあるため、この改正規定は、リスクヘッジとしてはとても良い方向性にあるのではないかと思います。
ただ、先程もお伝えした通り、第三者に個人や会社のセンシティブな財務状況等を開示する必要があるため、アレルギー反応を示されるケースも出てくると思います。
また、情報提供をしたら、保証を断られた、なんていうケースも出てくると想像できます。
しかし、それはそれで保証人を保護するという法の趣旨にも叶い、また断られた方はその時は辛くても、情報提供による保証人の反応のお陰で、その後の大きな危険を回避することができた、ということにもつながるのかもしません。
いづれにしても、昨日お伝えした極度額の設定と同様に、取引の間に入る我々不動産の現場担当者が、関係者に対して、上辺だけの手続きを要請するのではなく、本来の趣旨である取引の安全確保と関係者の保護という視点で、真摯に説明をしていく事が最も大切なのではないかと思っています。