店舗、特に居抜きの賃貸借契約にとって原状回復の取り決めは退去時のハードトラブルを未然に防ぐためのお守りです。

昨日は遠方の方から、店舗を退去する際の原状回復のご相談の電話を頂きました。

私が運営しているもう一つのブログである「テナント110番」の読者の方からのご相談です。

個別情報はお伝えできませんが、概要についてご参考までに共有させて頂きます。

ご相談の概要は、

数年前に、飲食店の居抜きの貸店舗を借りて、新たに全く別のサービス業を始めたのですが、経営環境の悪化で店舗を閉めることになってしまい、その原状回復について貸主とトラブルになっている

というご相談です。

当初、貸店舗を居抜きで借りた時、両者の間には不動産会社が仲介しておらず、貸主が作成した契約書にお互い署名捺印をしたそうです。

また、契約内容としても、原状回復について、

「借主は、退去時には原状回復を行うものとする。」

のみしか記載していなかったようです。

ただ、契約の前後に、お互い口頭で

「退去時はスケルトンにして返す。」

という約束を交わしていたそうで、

実際に今回の退去にまつわる原状回復工事においては、その口約束通りに、相談者の借主は、トイレも含めて全て撤去してスケルトンに戻したそうです。

しかし、その後、貸主から、

「トイレは作ってほしい。」

という要望があったため、それは聞き入れ、再度トイレを設置して明け渡しの確認をしたところ、

今度は、作ったトイレの詳細が希望と違うため、

「不足の工事は自分で手配するため、その費用は敷金から差し引きます。」

との一方的な連絡を受け、それに対して、どうしても納得ができないため、参考に意見を伺いたい、という主旨のご相談でした。

我々不動産会社としては、弁護士などの法律の専門家ではないため、不動産の現場における経験則を元に下記のようなお話をさせて頂きました。

まず、口約束でも契約になるため、双方が取り交わした約束は守らなくてはいけない、という点です。

そのため、貸主と賃貸借契約の前後に交わした口頭による原状回復についての約束は守らなくてはいけないということです。

ただし、書面にしていないことによって、後々お互いに認識の差が出た時は、第三者に対して判断を仰ぐうえでは、どちらかが不利になる可能性はあるのではないか、とお伝えしました。

また、不動産の賃貸借契約においては、特に店舗、その中でも居抜きで店舗を借りる時または貸す時は、次の店舗が将来退去する時に、どのような状態で退去するのか、つまり次の店舗の原状回復の内容について、明確かつ詳細に取り決めを交わすことが最も重要なことである、とお伝えさせて頂きました。

しかし、今回の契約では、契約書を貸主が作成したということで、両者の間に、店舗、特に居抜き店舗の契約書の作成に慣れた不動産の専門家が介在していないこともあり、原状回復の定めが、口約束の内容も含めて、非常にファジーで、正直、定めていないに等しい状態だと思います、と感想をお伝えしました。

『スケルトン』という言葉も、店舗仲介の現場では、使う人によってその定義が異なることが多いため、私が仲介や契約書を作成するときは、

『スケルトン』の定義について、また原状回復における『原状』の定義について、特約や別紙図面などできちんと定めています。

そのため、ご相談者の方には恐縮ですが、率直に言えば、起きるべくして起きたトラブルだと思いました。

相談者の方は、今後も複数の店舗を展開されていく意欲のある方でしたので、次からのアドバイスとして上記の点を実直にお伝えさせて頂きました。

今回の件については、私の私見としては、非常にファジーな取り決めしかしていない中で、貸主の要求は行き過ぎているきらいがあるようにも思えました。

相談者の方は、今後について、貸主に敷金を預けていて一方的に追加工事費用を差し引くと言われている手前、また、間に相談に入って相談にのってくれる不動産会社もいない契約であることからも、今回はダメ元の覚悟で少額訴訟を試してみたい、とおっしゃっていらっしゃいました。

今後については、後日相談者からご報告頂けるとのことですが、ご相談をお伺いした中で、我々にとっても多くの教訓を学べるご相談だと思いましたので、お伝えできる範囲内で共有させて頂きました。

ご相談者の方にとって、良い方向で解決されることを心から祈っている次第です。